アパレルの産業構造の分析
前回述べた問題点や課題を解決して行くためには、現状のアパレル産業構造を分析してみる必要がある。構造不況型の産業として政府からも見離されていた長い道程が、80年代後半から通産省や文化庁の新しい動き、東京商工会議所を背景とした東京ファッション協会の発足や「ファッション万博」構想、ファッション振興財団の設立などによって、動きが活発になってきたことは大変評価できることであり、業界に対しての大きな認識の変化の表れであると思う。ところで、アパレルビジネスの蓄積してきたノウハウというものは、特にブランドビジネスの上手さであろう。ブランド開発から始まって、マーケティング戦略やマーチャンダイジング機能、プロモーションやイメージ戦略、情報収集システム、顧客管理システム、などのソフトは独自のノウハウを形成してきたのである。まして今日のように、ファッションという言葉が広義の意味として解釈されるようになり、衣、食、住、遊、休、知などのアメニティーな様々な生活シーンを、個人が演出し、楽しみ、味わうような時代になると、これらのノウハウを様々な分野で生かすことが出来るはずである。これらを戦略とした新しい提案は異業種との関連の項で詳しく述べることにしたい。アパレル業界は70年代の高度経済成長とともに著しい伸びを示してきた。当時に於いても現在と同様に供給過多構造は変わらないものの、需要の促進と消費の伸びに支えられながら、いわゆる当時の状況というのは、お客様に「売っていた」のではなく「買ってもらっていた」感が強く、現在のようなあらゆるソフトの導入を図らなくとも企画、生産、営業(考える、作る、売る)という三つの柱を中心として成り立ったのである。過去の「ノリ」を5Kに、そして今後の「テーマ」を5Sに例えてみると下記の(表A)のような比較をすることが出来る。以下の表をみてもわかるように、5Kは精神的価値観のみを経営主眼に,需要先行に応えるべく、オーバーワークの連続で売り上げ至上主義を貫いてきたのである。


それに引き替え5Sは長いタームで時代を読み、クリエイティブ〜オペレーションまで一貫した戦略、システムを科学的に構築していくためのインテリジェンスと文化性を要求される。しかし、これらの体質改善はかなりの時間と努力を要するのである。これまで経営サイドから見た問題点、そして今後の課題を論じてきたが、もう少し実践(特にデザインやMD)の部分にふれてみたいと思う。昨今の自動車や家電、インテリアといった分野の商品開発、マーケティング戦略、イメージプロモーションなどのレベルアップはめざましく、これらの業界自体が時代のトレンドを作っているのではないかと思うほどの勢いはある。デザインを主軸としたパナソニックやサンヨー、シャープのイノベーション戦略、日産自動車やマツダのユーノスのニューモデルなどにみられる<デザイン・オブ・ザ・イヤー>の商品群は、ジウジアローやルイジコラーニなどの海外のデザイン導入も図りながら日本のインダストリアル・デザインのアートか、機能性・クオリティーのレベルアップ、コストパフォーマンスへの限りない追求など、非常に健闘しているのである。本来ファッションビジネスは「モード」というアート性や、エスプリを活用することでファッション的に発展してきたが、今日のライフスタイルの変化と社会の情報化のスピードの前に、ともすると型の追求に追われ、ライフデザインに対する思想や提案、ユーザー感覚のニーズやデザインロイヤリティーの高さが問われている。歴史的にみて、マーケティングなどの分野で他業界に学ばざるをえなかったのは納得できる。しかし、デザインがデザインのみで完結することなく、MDノウハウや適切な生産技術を背景に成り立つアパレル企業としては、本来は他業界をリードしていくスタンスを持たなければならないはずである。次回はさらに詳しく述べてみたい。